『ブレーン』では佐藤可士和さんが美大生からの質問に答える連載コーナー「美大生からトップクリエイターへの質問」を掲載しています。本記事は、『ブレーン』2012年2月号(連載第7回目)掲載記事の転載です。
連載「佐藤可士和さんに質問」はこちら
可士和さんはどのようにチャンスをモノにしていきましたか?
(多摩美術大学 グラフィックデザイン学科1年 河野智)
A.やりたいことは言葉にして伝える
全員に平等なチャンスなんてない
待っていれば平等なチャンスが与えられると思うのは、大きな間違いです。同期入社であっても、同じような仕事をするとは限らない。少なくともアートディレクター志望者に関して言えば、どの会社でもそうでしょう。特に新人は、自分の仕事を選ぶことなんてできない。入社後の配属によって、あるいは担当するクライアントによって、全く違う作業をすることもあります。最初からイメージ通りの仕事ができた人は、たまたま運が良かった人です。
僕は博報堂に11年間在籍しましたが、その間担当した仕事は大きなクライアントのキャンペーン中心でした。それは正直なところ、当時の僕が希望していたイメージとは少し異なりました。
大きなキャンペーンは、プロジェクトの規模も予算も、CMの投下量も大きく、一見華々しい。でもその分、デザインだけでは解決できないことも多い。大きなマーティング戦略ありきで考えなければいけないことを、当時の僕は少し窮屈に感じていました。そこまで規模が大きくなくてもいい、もっと自由度の高い、表現力だけで勝負できるような仕事をしたい、と思っていた。
隣の芝生は青く見えると言いますが、他人の仕事はうらやましく見えるものなんでしょう。規模が小さくて自由度の高い案件に携わっていた人の中には、大企業の華やかな仕事をしたいと思っていた人もきっといたはず。そう考えると、ある意味では、全員に同じようにチャンスが与えられていると言えるのかもしれません。どの仕事も本質は変わらないし、どんな案件であっても簡単な仕事なんてない。大切なことは、そうして偶然与えられた仕事の中で、どうやって自分のバリューを発揮していけるかなんです。
「何がしたいの?」なんて誰も聞いてくれない
チャンスを得たいなら、仕事の目標やキャリアプランは絶対にあったほうがいい。と言っても学生時代の僕は「博報堂に入って、ADC賞を獲ってすぐ独立だな」くらいしか考えていませんでしたが(笑)。入社後すぐにそんなに甘いものじゃないとわかったけれど、でも「とにかく一刻も早く一人前のアートディレクターになる」という目標はぶれませんでした。だから何もできない新人のうちから、「アートディレクターをやりたい、やらせてください」とことあるごとに周囲に伝えていた。それは伝えておいて本当によかったと思います。
社会に出たら「キミは何をしたいの?」なんて優しい質問は誰もしてくれません。自分から伝えないと、誰にもわからないんです。自分が何をしたいのか。いま何を考えているか。わかってほしいのなら、常に自分からアピールしていかなければ。これは新人に限ったことでも、アートディレクターに限ったことでもありません。今でも僕は、日々の仕事の中で、自分の頭にある考えをできるだけ言葉にして伝えるように心がけています。
平等ではないチャンスをつかみたければ、日頃から周囲に対し、自分のプレゼンテーションを惜しまないこと。とはいえ、いつも自分のやりたいことばかり話していては、ただの空気の読めない人。TPOは意識してくださいね。
※編集部では佐藤可士和さんへの質問を随時募集しています。 brain@sendenkaigi.co.jp まで[質問、お名前、学校名、学部名、学年]を書いてお送りください。
※最新号(2012年5月号)では、「起業に向いているのはどんな人ですか?」への回答を掲載。こちらもあわせてご覧ください。
(プロフィール)
佐藤可士和
アートディレクター/クリエイティブディレクター。1965年生まれ。多摩美術大学卒業後、博報堂を経てサムライ設立。主な仕事にユニクロ、楽天グループのクリエイティブディレクションなど。
シリーズ【佐藤可士和さんに質問】
- 「作家性の高い作品にも取り組んでいくのですか?」(第6回)
- 「毎日必ずすることは何ですか?」(第5回)
- 「採用面接では、何を見ているのですか?」(第4回)
- 「震災で何が変わりましたか?」(第3回)
- 「日本人の強みは何だと考えますか?」(第2回)
- 「美大生がもっと勉強すべき分野は何ですか?」(第1回)
人気アートディレクターである著者が、学生との一問一答を通じて、やさしく、わかりやすく、ズバッと答えます。月刊「ブレーン」での好評連載にオリジナルコンテンツを加えて書籍化。
定価:¥ 1,050 発売日:2012/12/25